シュレーディンガーから量子コンピュータまでざっくり掴める名著!
近年、何かと騒がれている量子コンピュータや物事の例えで使われる「シュレーディンガーの猫」など、意外と身近な「量子論」について、その学術史を紐解きながら解説してくれる、非常に面白い本です。
量子論に関する研究の歴史的な背景から解説されており、物理を全くわからない人、興味のない人も教養として楽しめる構成になっています。
序章〜猫とアインシュタイン・ボーアによる対話式の導入〜
この本の、特筆すべき特徴の一つとして、序章の親しみやすさが挙げられます。相対性理論でおなじみのアインシュタインと量子論を作ったと言われるボーア、そしてシュレーディンガーの猫の三人の対話を元に量子論の概要が議論されます。
この概要が非常によくできていて、概要のためだけにこの本を買っても良い!と言うほどわかりやすいし面白く書かれています。
残念ながらこの三人は序章にしか登場しないのですが、読み進めていく中で何度か振り返ると便利な序章です。
第1章〜光とは何か?〜
第1章では、量子論という分野が誕生するよりも前の段階である「光とは何か?」という議論を扱います。
光は粒なのか並なのか?光が示す「とびとびの値」といった、基礎的・古典的な議論を非常に詳しく解説してくれます。
第2章〜原子の話〜
第2章では、前期量子論ということで「原子」についての議論が紹介されます。高校で習う化学などを思い出しながら読むと「なるほど」と思う方も多いかと思います。
かなり、原子や電子について、ここでもかなり噛み砕いた解説が載っており、軌道半径やボーアの仮説などがわかりやすく語られます。
が、章の最後に「ボーアの前期量子論は欠陥だらけ」というトピックがあり、そこから量子論の本題に導かれます。
第3章〜見ようとすると見えない波〜
第3章でようやく「量子論」の骨格が解説され、電子を波と考えることや、シュレーディンガー方程式、波動関数の確率解釈までを一気に解説されます。
この章では、前までの古典的な議論や挑戦的な考え方が総体となって「量子論」という一つの考え方を形成する根拠が述べられ、難解な事柄も多いですが不思議と読みやすく説明されます。
章の最後には、アインシュタインの確率解釈への異議が解説されます。「神はサイコロ遊びを好まない」という立ち位置についても触れてくれます。
第4章〜量子論の本質〜
第4章では、電子は波の性質を持つ事、量子論における「観測」や「不確定性原理」とは何なのか、そしてFPRパラドックスについて解説されます。
この章では、電子が「ジキルとハイド」のような二面性を持つ事や、位置と運動量が同時には確定できないという「不確定性原理」について説明されます。
一方で、章の最後には量子論に対するアインシュタインの反論であるEPRパラドックスについて解説されます。この本ではボーアの「判定勝ち」としていますが、なかなか興味深い理論です。
第5章〜多世界解釈〜
第5章では、ついにシュレーディンガーの猫についての解説が行われます。
よく、こういった物理理論や宇宙に関する議論で哲学が持ち出されますが、その理由もこの章を読むと何となく納得できると思います。
シュレーディンガーの猫というパラドックスと、それを解決するための多世界解釈すなわちパラレルワールドという、一見すると不思議すぎてついていけない理論も、可能な限り優しく解説されます。
第6章〜量子論の展望と応用〜
第6章では、量子力学とは違い「理論」という意味合いの強い量子論が、様々な分野で活用されている様子が解説されます。
近年では、量子コンピューターというワードが一つのトレンドになっていますが、その理由や量子論との結びつきについても解説されています。
この章を読み終わった頃には、巷の量子に関するニュースを少し深く理解できると思います。
一般教養としてオススメ
何かと、「教養」やら「雑学」がもてはやされる時代ですが、この本は歴史的背景から、理論の成り立ちまで網羅的に量子論を解説しているので非常にオススメです。
特に、忘れてしまったであろう高校の時の物理や化学についても、その背景にある考え方を補ってくれるので、なかなか重宝します。
中高生や大学生に
量子論という分野はまだまだ発展途上でリアルタイムで研究がなされ、発展している分野です。そうした研究に興味を持つ中学生や高校生には特にオススメの一冊です。
また、文系理系を問わず大学生にはかなりオススメできる本だと思います。歴史的な背景を構成としているので、文系の人にもわかりやすいし、理系の人も背景知識の補足として十分面白い読み物になっています。