ホフマン一押しの作家である長野まゆみさんの代表作です。
独特の妖艶で繊細な文体と、BLっぽい雰囲気がクセになる長野作品の中でももっとも有名で人気の作品の一つです。
あらすじ
ある雨の日、傘を持ち合わせていない主人公は女性から声をかけられ、女性ものと思しき傘を貸し与えられる。そんなところから物語は始まります。
姉夫婦の家の敷地に別の玄関口と部屋を構えるという、一風変わった所に住んでいる主人公は、姉が他界した今は義兄と中途半端な共同生活を送っています。そして義兄、上司を中心とした職場の人間、今は亡き姉という主人公を取り巻く様々な人間模様が描かれます。
- 傘をどうぞ
- レモンタルト
- 北風ふいて、雪がふったら
- とっておきの料理
- 傘どろぼう
という目次で、話は進み、傘で始まり傘で終わるという展開です。筋書きを楽しむというより、主人公の周りの人間関係とその描写、そしてそれに対する主人公の考察を楽しむ作品なので、ストーリーは本編でご確認ください。
みどころ
長野まゆみさんの作品の魅力は、「長野まゆみ」が書いているということに集約されます。その文体や物語の空気感は誰にも真似できるものではなく、カテゴリやジャンルに収まらない、独自の宇宙を持った作家の作品です。
人物設定が現実的でありながらもどの人物も内面はどことなく独特で、読んだ後に現実世界に生きる自分の身の回りの人、出来事にもロマンを感じさせてくれる作品です。
また、この作品は主人公の心理描写というか人間観察や考察が非常に面白いです。その人のファッションや細かい言動から心の奥底の思惑までを考え想像する様子は、読む人によって異なる印象を与えると思います。主人公のように自分も人間関係において色々と想像をするタイプか、そうでないかによって、この作品の読み方は変わってくるでしょう。
こんな人にオススメ
長野まゆみさんの作品は、文芸作品ですのでやはり中高生の読書感想文よりは、大学生以上の人に純粋に文学作品として、あるいは私小説として楽しんでいただきたいですね。
大学生の場合は、社会勉強にもなりますので就職活動の勉強もかねて目を通して見ても面白いかと思います。長野作品は全体的に、若い人向けの作品が多いので、20代のうちに読んでおきたい一冊とも言えます。
あとは、平たくいえば「腐女子」の方にオススメですね。BL系の小説だと歯ごたえがないし、しっくりこないけど、いきなり三島由紀夫はキツイ、そんな方にオススメです。文学的な美しさや、耽美な世界観は一度ハマったら病みつきになること間違いなしです。