あらすじ
プロ棋士の仕事
ヒカルは行きつけとなった碁会所で囲碁を打つようになり、アキラは仕事でイベントに参加します。アキラの相手は都議会議員らしく、負けてあげるようにと役員から言われます。その都議会議員はかなり嫌な感じの人物で、碁盤にコップを置くなど囲碁の世界では咎められる行為を平然と行います。同行する付き人がその碁盤を拭くのをアキラは眺めます。アキラが行うのは四面打ちで、議員とその秘書や付き人とを同時に相手として戦います。
目算と持碁
一方のヒカルは、目算について碁会所の老人から指導を受けます。目算とはいわゆる対局中に地を数える技法で、自分の地と相手の地を数えて形勢判断をすることで、プロには必須の技術です。ヒカルはわざと対局を持碁すなわち引き分けにするという訓練を言い渡されます。中盤からヨセにかけて目算を使い相手の出方を見ながら引き分けに持ち込むという高度な訓練です。
打つ速さが遅くなったり、下手な手を売って帳尻を合わせたりすることなく、相手から悟られないほど自然に引き分けに持って行くというのがポイントで、慣れてきたら二面打ち、三面打ちでやってみようと碁会所のマスターは語ります。ヒカルは一人相手に持碁すなわち引き分けすることに成功しますが、マスターはプロの棋士なら百回やって百回成功すると言い放ちます。調子付いたヒカルは二面打ちに挑戦します。
ヒカルとアキラ、それぞれの戦い
一方のアキラは都議会議員たちとの四面打ちに対して真剣な面持ちで取り組みます。特に議員の秘書だけがかなりの実力者であり、警戒しながら対局を進めます。「調整」をキーワードに四面打ちを進め、実力者である秘書相手に持碁で対局を終わらせます。
対局が進む中、アキラはなんと四面全てを持碁にするという離れ業をやってのけます。実力者である秘書は驚愕し、議員も気を悪くするどころか驚き動揺します。自分たちは普段通り打っていたので意図的に引き分けに持ち込まれたとは信じられず、おどおどする中でアキラは毅然とした態度を取り続けます。
自分が議員たちにした事に対し秘書にアキラは謝りますが、次はもっと上手くやるようアドバイスされ、その場は収まります。その後、兄弟子である芦原から才能の無駄遣いをするなと言われます。そして会話の中でアキラはふとヒカルを思い出します。
一方のヒカルは四面うちの中で三面まで持碁にし、残る一面で1目計算ミスをしてしまいますが、かなりの成長を見せ周囲を驚かせます。アキラとはまた違った形ですが、二人の差が縮まりライバルの関係に近づくことが描かれます。
みどころ
この回はジャンプらしいというか非常によくできた回です。決別し別の道を歩む主人公とライバルが、四面持碁という同じ戦いを繰り広げるという構図で、観ている人だけが客観的にドラマティックさを感じるという仕掛けになっています。
プロ棋士という立場の意味合いが、院生たちと大人の社会とでは違うということ、碁盤にコップを置いてはいけないが置いてしまう大人もいるという、明確には描かれませんが作者の囲碁愛や業界の世界への精通を感じさせます。
それにしても、囲碁の難しさと面白さ、そして奥深さと極めた者の圧倒的な強さもよく分かる回です。将棋やチェスでも多面打ちはあり得ますが、目算を駆使して「持碁」という引き分けに持ち込むというのは囲碁ならではの発想であり、難しさでしょう。
碁会所で解説される持碁に持ち込むための心得が非常に重要な鍵で、相手に悟られずに自然な形で引き分けに持ち込むというのが常人には理解しにくいところです。しかしながら、議員たちの驚きぶりからすると実際に打っていてもプロが本気を出せば、あたかも自然に持碁になったと思うものなどでしょう。
最後にアキラがヒカルに思いを馳せるシーンから、ヒカルが四面打ちで持碁に挑戦しあと一歩のところで失敗しているシーンへの流れは、個人的に胸熱なポイントです。