まだ第5話ですが、ホフマンは神回だと断言します。神回です。
あらすじ
「あの夜生まれた感情を、どんな名前で呼べば良いのか、それは恋とかトキメキだとか甘い響きは似つかわしくない。嫉妬が入り混じった羨望と焦燥感、そして、欲情。」
「今でも時々不安になる。レンと暮らすこの日常が、全て夢の中の出来事に思たりする。それまで卑屈に生きてきた私に、レンは眩しすぎたから。どんなに足掻いても、いまだに手が届かない気がするよ。」
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ガキのノブと大人のヤス
ノブの卒業式の日(なお、同期のナナは中退しているよう)、海辺でヤスがノブにレンの東京行きを伝えます。どうやら、レンが地元から一足先に上京し、メジャーデビューが決まったトラップネスト通称「トラネス」からオファーを受けて上京する事が明かされます。
そのことを聞いたノブは、「ブラストは?俺らはどうなるんだよ!」とショックを受けます。「すぐ新しいメンバー見つかるよ」とヤスは言いますが、「なんか裏切られた気分だ」とノブは落ち込みます。ノブは自分らも上京したらどうだとヤスに言いますが、「俺は音楽で飯食ってくつもりはないし、レンはトラネスとの縁を大事にするべきだ」と切り捨てます。
現状とこれからのことに釈然としない様子のノブに、ヤスは「東京に行きたきゃ行けよ!ただ、レンの邪魔はするな!」「お前は就職決まらなくても旅館の後を継げば良いし、バンドは遊びでやれば良いだろ」と嗜めます。
ノブは自分のことはともかく、「ナナはどうなるんだ?」とヤスに詰め寄ります。ここでもヤスは落ち着いて、「捨ててくとか連れてくとか、ナナはレンの飼い猫じゃねえぞ。立派に自立した一人前の女だ。一緒に行きたきゃ行くだろうよ、それはナナの決めることだ。レンもきっとそう思ってるよ。」とコメントします。
それを聞いてノブは「やっさん。あんた大人だ」と羨望の眼差しでヤスを眺めます。しかしヤスも「ナナまで東京行っちまったら、ブラストは解散だな、俺は足を洗うよ」と寂しそうに呟きます。
二度目の出会い
「レンと二度目に会ったのは、潮風が肌に絡みつく、真夏の午後だった」
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夏のノブの家で、レンとヤスが新しいバンドをやるからギターを弾かないか?とノブをスカウトしにきます。しかし、ボーカルがなかなか決まりません。「べっぴんの女が良いな」という二人が言っていると、ちょうどそこにナナがやってきます。
ノブに借りてたCDを返しにきたナナは、レンの顔を見て赤面しますがクールにその場を立ち去ります。ナナに興味を抱いたレンはナナをボーカルにしようと思い立ち、ナナの後を追いかけます。
「あの日から私は、レンが放つ音楽で高鳴る潮騒のようだった。胸が成り立つ、高く、高く、高く……」
「溢れた思いが恋になる。だけど私は、レンのために歌うことを決めたわけじゃない。私は、私のために、今日まで歌ってきたんだよ。」
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決別、ナナの思い
場面は、おそらくヤスとノブの海辺のシーンの後、ナナのバイト先にノブが卒業証書を見せびらかしに来ます。ノブは軽いノリでレンと一緒に上京するのかとナナに聞きます。「さては引き止めに来たなあ、私がいないと寂しい?」とナナが茶化すとノブは、いきなりナナに駆け寄り「行けよ東京!俺も行くからさ!」と言い始めます。
ノブは「東京に行ってメンバー集めてプロ目指してみないか?やってみる価値はあると思う。ナナの歌ならいけると思うし、それに賭けてみたくなった。今更他のボーカルでギター弾く気になれないし、ヤスもきっとそうだ」と捲し立てます。
ナナは静かに泣きながら、「あんたが言うな、レンに言われたかったセリフを、アンタが言うな。ありがとうノブ、でも、私は行かない。」と苦しそうに言います。ノブは「レンと離れて平気なの?バンド離れても一緒に暮せば良いだろ!レンはお前がついて行っても邪魔に思ったりしない。レンは本気で惚れてるんだよ。」と励まします。
ナナは「わかってる。けど、レンに抱かれることだけが私の人生じゃないんだ!」「私も、歌で飯が食えるようになりたい。でも今は嫌、今行ったらまたレンと暮らしてしまう。」「もし今レンについて行ったら、レンが超歌唱力のある女ボーカルのバンドで盛り上がっている一方で、自分はデビューのあてもなく味噌汁作りながらレンの帰りを待つんだ。そんなのまっぴらだよ、悔しいじゃない。だから、もっと実力をつけて、レンがいなくても自分の力でちゃんと歌えるんだって自信をつけて、いつかきっと一人でも東京に行く」と胸の内を語ります。
恋愛感情とプライド
「私とレンが結ばれたのは、出会ってちょうど一年目のクリスマスの夜だった。ライブの興奮が覚めなくて、打ち上げの帰り道、雪の積もった防波堤の上でふざけあってはしゃいだ。」
「あまりに突然で、目を閉じるのも忘れた。」「死んでも良いと本気で思った。私はレンが欲しかったから。あの日からずっと。」
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場面はナナとレンが出会って一年のライブ後、二人が恋人同士になったことや、その後の二人の生活が回想されます。その中でナナは、レンの恋人となってバンドから離れて妻として暮らすことも考えます。
「レンは私に歌う喜びをくれた、ギターを教えてくれた、生きる希望を与えてくれた。だけど私は、レンのために何をしてあげただろう。このまま別に歌なんか歌えなくなっても、レンと一緒に東京に行って、レンのためにせめて毎日ご飯を作って、部屋を磨いて、レンの子供を産んで……」
「そうするべきなのかもしれない。それだって十分すぎるほどの幸せじゃないか、家族のいない私たちにとって、安らげる家を作ることは、夢を叶えることより必要なはずなんだ。」
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いよいよレンが上京する日、ヤスとノブそしてナナは新幹線のホームに見送りに行きます。ノブはレンの荷物の少なさを指摘しますが、「俺にはギターとタバコさえあればいい」とレンは粋がります。どうやら、先に宅配便で東京に大方送ってしまっているようです。
そんな話もそこそこ、いよいよ別れの時がきます。新幹線でナナとレンは唇を合わせ、発車ベルが鳴りナナは新幹線から飛び出て泣き崩れます。新幹線を追いかけたノブは、車両の窓の中のレンもナナと同様に涙を流しているのを見てはっとします。
「レンと暮らして一年と三ヶ月、まだ雪が残る春の始まりに、私たちは終わった。さよならは言わなかった。だけど、離れて暮らすことが二人にとって致命的なのはわかっていた。電話や手紙なんて価値がない。抱き合えなければ意味がない。レンが言葉にできない寂しさを、夜毎、私の中で吐き出しているのを感じていたから。誰よりも、深く感じていたのに。」
「今でも時々後悔する、レンのいないこの日常が全て夢の中の出来事に思たりする。特に、こんな雪のふりしきる夜は。こんな寒い夜は、誰か、あの人を温めてあげてね。」
「レンと別れて一年と九ヶ月、もうすぐ二度目の春が来る。三月のハタチの誕生日には、頑張った自分にプレゼントを買いに行こう。東京までの片道切符、手荷物はギターとタバコさえあればいい。」
みどころ
ヤスとノブの会話が実に良いですね。大人なヤスとガキなノブの対比が際立っていますし、「やっさん、アンタ大人だ!」に対する「お前がガキなの笑」のツッコミが素敵です。レンが最後にノブにタバコを渡すシーン等、なんだかんだちょっとした仕草がカッコ良い若き日のブラストの面々をみることができます。
そしてブラスト設立の経緯も描かれます。バンド加入前のナナのファッションやお化粧がツボですね。物語の始まりを表すかのような挿入歌もカッコいいです。さらっと語られる「愛を笑う奴は愛に泣くぞ」と言うヤスのコメントが、実はこの物語の本質を語っているものになります。ヤスのこの時点までの背景も理解していると、このちょっとした冗談まじりの発言が非常に深く哀しいものになります。
ナナにケーキを送っているファンは美里という人物で、実は今後もナナたちの物語に深く関わる重要人物です。あまり過去を語らないナナですが、その描写も少なく、前回の第4話と今回の第5話がナナを形作る全てを物語っています。ナナのレンに対する思いと、自分の人生や歌へのプライドといった複雑な感情が回想とモノローグによって描かれます。レンとナナが結ばれてからの回想シーンはアニメ屈指の美しい場面です。フランス映画のような?描写や演出が素敵です。
そしてレンとの別れのシーンからラストのエンディングまで、さながら最終回のような演出で、ナナの上京までの過去の物語が完結します。第5話にして涙腺が緩むクライマックスです。
物語全編を通して過去の回想という形で描かれるNANAですが、二人の主人公が出会う前までの過去の回想という入れ子構造が形成されており、ここで一通りの完結をします。特にこの第5話はナナの甘く苦い過去が芸術的に描かれ、神回だという人が多いですね。