あらすじ
章司と奈々
奈々は無事章司と再会し、二人の仲は戻ります。章司は「奈々を連れて上京したいが、経済的にも負担だし男として苦労をかけたくない」と言います。それに対し奈々は「田舎に残って上京資金をためて、章司が合格したら上京する」と言い、二人はめでたく結ばれ抱き合います。
浅野との関係や感情に区切りがついた奈々は、遠距離とはいえ章司との新しい恋愛に酔いしれ喜びます。
「幸せな恋がしたかった。映画みたいにロマンチックでドラマチックな恋。でも17の夏、初めて女になって、男なんかそんな甘いものではないと知った。はずだったのだが、今宵、甘ったるい幸福の味で、体中がとろけそうだ。」
「女の人生、そう捨てたもんじゃないね、淳ちゃん。」
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ナナの物語
「私は自分の生まれ故郷を知らない。父親の顔は見たこともないし、母親の顔もとうに忘れた。四つの時にこの海沿いの街に来て、小料理屋を営む祖母に散々嫌味を言われまくって育ち、今はバイトに明け暮れながら、夢のカケラを磨いてる」
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物語は突然、ナナのモノローグが始まります。故郷も父親の顔も知らず母親にも捨てられ、「海沿いの街」で育ちバンド活動をしていることが語られます。
ナナの所属する「ブラスト」(Black Stones)は根強いファンがおり、地元でなかなか人気であることが描かれます。ナナは高校中退、恋人のレンは中卒、ノブは卒業間近の高校生、ヤスは国立大法学部の学生とのことです。
レンとナナは同棲しており、二人は出会った頃のことやナナの過去について話し、ナナはレンとの出会いについて回想します。
ナナとレン
父親が誰か分からない子として生まれ、母親に捨てられた奈々は、祖母に預けられますが、母親のこともあってか女の子らしいものを否定され育ちます。祖母が他界したのを機に自分の好きな服、赤いワンピースを着てノブに連れられてライブに来たのがレンとの出会いでした。
レンに心酔するノブは、レンの倉庫街に捨てられて施設で育った生い立ちや、レンがそれを自慢していることを語り、ナナはレンに嫌悪感を抱きますが、ライブで一目惚れしてしまいます。
「だけど、ステージに現れたその男に、私は釘付けになってしまった。」
「あの夜生まれた感情を、どんな名前で呼べば良いのか。それは恋とかトキメキだとか、甘い響きは似つかわしくない。嫉妬が入り混じった羨望と焦燥感、そして、欲情。」
「今でも時々不安になる、レンと暮らすこの日常が全て夢の中の出来事に思たりする。それまで卑屈に生きてきた私に、レンは眩しすぎたから。どんなに足掻いても、いまだに手が届かない気がするよ。」
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幼い頃の境遇は似ていながらも、それまでの自分と全く違う生き方、考え方をもつレンに対してナナは特別な感情を抱いていると回想します。
レンとナナはいつも通り?の夜を営んだ後、もっと大きい会場でライブをしたいと言うナナに対して、突然レンは「俺、東京行くから。お前はお前の好きに生きればいいさ」と突然言い放ちます。
みどころ
章司と奈々のやりとりが前半の一区切りです。めでたく二人は結ばれますが、遠距離であることや奈々の酔いしれる様子など非常におもしろく綺麗に描かれます。
一転してナナのモノローグが始まり、オープニングテーマとは別の主題歌が流れライブに突入するあたり、憎い演出です。
ノブが明日卒業式だという事実から、奈々のモノローグで語られた物語と同じ時期にスタートしているもう一人のナナの物語だということが暗示されます。三月なのに雪が降っているということも地理的なヒントになりますね。
さりげなく、ナナが高校中退、レンが中卒、ノブが高校卒業直前でナナと同期(のはずだった)、ヤスが少し年上で、法学部学生だということが描かれます。
「海沿いの町」でのレンとナナの関係は非常に切なくも、独特なもので、二人の会話が回想につながり、そしてレンの上京の告白へと物語が流れるように紡がれます。