ホフマンのメディアリテラシー考察 「踏み間違い事故から考える報道の偏り」

ここ数年、マスメディアに対する批判、特に若い世代からの不満の声が上がっている。筆者自身はこの傾向はとても良いことだと考えている。メディアの流す事実を鵜呑みにしないというのは、現代社会を生きる一つのスキルであり大衆が考える力を持っていることを意味するからだ。

問題は、新聞やニュースを作る側の意識が全くもって改善されないという点である。意識を改善するつもりがあるのか無いのかは定かではないが、マスメディアの実情は客商売であり、基本的には家でテレビや新聞を観たり読んだりする世代(すなわち高齢者)がターゲットである。ここ最近の高齢者ドライバーによる相次ぐ事故で、マスメディアがどう動くのか?筆者は注目している。

データの使い方でわかる書き手の立場

大衆も賢いので、最近はこういう記事が出ると物議を醸すようになったが、報道を考えるぴったりな記事を見つけたので紹介させていただく。

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201905/0012340798.shtml

この記事、数年前なら「なるほど、踏み間違い事故は若年層の方が多いのか、ふむふむ」という読者が多かったかもしれないが、今は違う。

なぜなら、主な読者層である(と書き手が考えている)高齢者に対する配慮に溢れている記述だとバレてしまうからだ。そもそも、「若年層」曖昧な一括りとしてサンプルのカテゴリを広くして「若年層が最多」という見出しをつけているのに対して、高齢者側は「60代」「70代以上」という風に、分けているし「事故発生の件数」だけでは「若年層の方が事故を起こしやすい」とは言い切れない。

その上、この記事は重要な点が(意図的かは定かではないが)抜けている。それは、「踏み間違いによって人が死んだ事故」の年齢別傾向だ。そして、その結果こそが議論されてしかるべきもう一つのポイントである。詳細は以下に詳しく書かれている。

https://clicccar.com/2019/04/22/764688/

ニュースで取り上げられるような、尊い命が犠牲になる大事故に関して言えば、圧倒的に高齢者の方が件数は多いのが実情だがどういうわけか、新聞記事に載らなかったりするのが報道の面白いところである。

データから何を読み取るか?

そもそも、若年層による踏み間違い事故件数が多いというデータから読者および報道が最初に考えなければいけないのは、「なぜそのようなデータになったのか?」である。「車の運転機会が多いこと」や、「車の運転にまだ慣れていない」という理由を考えた上で、注意や啓蒙をするという記事なのであれば、上記の記事も大変意義深いものになっただろう。

が、実際は少々悪質というか乱暴な見出しの論理が展開されてしまっている。もちろん嘘は書いていないが、果たしてこの記事は良いものなのだろうか?

高齢者と若年層の踏み間違いによる事故に関して年齢別に比較するなら、同じ数のサンプルを用意して傾向や割合といったデータで論じなければ、高齢者にとっても若年層にとっても自動車にとっても部が悪いだろう。絶対数で論じてしまっているあたりが惜しい記事である。

統計は操作できる

アカデミックな世界では統計学というのは「客観性を担保していなければいけない」というルールが当然であるが、報道業界では必ずしもそうではないらしい。グラフや表を「わかりやすく」記述するという、記述統計の時点で「自分たちの導きたい結論の論理を展開しやすいように」処理されてしまうケースがマスメディアでは日常茶飯事であるように感じる。

街頭インタビューやアンケートもサンプルや対象の集め方(一時期政治に関する街頭インタビューにいつも出てくる女性が話題になりましたが)も導きたい結論によって手法を変えれば、書きたい論理展開の記事と番組を作ることなど簡単なことである。

情報の受け手として考えること

それでは、情報の受け手である我々は何を考えれば良いのか?様々な利害関係に左右されるマスメディアに偏向しない報道は不可能であり、そういった中でもマスメディアの皆さんは、(世代間で価値観の違いはあるにせよ)視聴者や読者に面白いものを届けようと日々頑張ってくださっている。

我々にできることは、マスメディアの意図や状況を「汲んだ」上での情報収集や考察であると筆者は思う。新聞やニュースに期待するのではなく、一歩進んで信頼できる資料を見て一人一人が考える。そういった心がけが大事だと思いながら、自動車に気をつけて生活をするのが吉だろう。

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